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2012年10月

2012年10月30日 (火)

Buddy Bolden's BluesとSt. Louis Tickle (1)

1960年代の話.後にレコード・プロデューサーになったブルース・ファン,ノーマン・デイロンはテープ・レコーダーをシカゴのクラブやマックスウェル・ストリートの路上などに持ち込んで,いろいろなブルース・アーティストのライヴ演奏を録音した.現在それらは色々なCDで聞くことができて,サニランド・スリムとJ・B・レノアがFuel,ロバート・ナイトホーク,ビッグ・ジョー・ウィリアムズ,ジェイムズ・コットンらがBullseye Blues,リトル・ジョニー・ジョーンズとビリー・ボーイ・アーノルドがAlligator,という具合だ.素晴らしい瞬間がいくつもあって,貴重な記録としか言いようがない.

これらのCDの一つに,Rare Chicago Blues, 1962-1968 (Bullseye Blues CD BB 9530) があって,このCDも結構古いんだけど,もっと昔はTK RootsのLPで出てた曲が入っている.それで,好きな曲の一つがリトル・ブラザー・モンゴメリーのBuddy Bolden's Blues.ブルースというか,プリ・ブルースみたいな曲なのだけど,モンゴメリーならではの哀愁が存分に味わえて,とても良い.

Buddy Boldenというのは録音することなく亡くなった(殺された)ニューオーリンズのトランペット奏者で,モンゴメリーは1920年代にニューオーリンズにいた頃覚えたのじゃないか,なんて想像する.ニューオーリンズ・ジャズ方面で有名な曲かもしれなくて,ジェリー・ロール・モートンも1938年に国会図書館に録音している.その他ジャズ屋さんの録音があるようだ.

ところで,1897年から1925年の,古い録音を集めたCD,Stomp And Swerve - American Music Gets Hot, Archeophone ARCH 1003を聞いていたら,いきなりBuddy Bolden's Bluesみたいなメロディーが出てきた.白人バンジョー奏者ヴェス・L・オスマン(Vess L. Ossman),マンドリン奏者オードリー・ダッドリー(Audley Dudley),それにハープギター(って何だ?)のトリオが1906年に録音したSt. Louis Tickleがそれだ.

調べてみたらSt. Louis Tickleというタイトルでは古い録音が結構あって,カリフォルニア大学サンタバーバラ校の蝋管(シリンダー)レコード・アーカイヴでは,ヴェス・L・オスマンのものが2バージョン(1906年と1910年の録音.CDに入ってるのとは違う),プリンスの楽団(1905年録音)のもの,が見つかる.それ以外にも,録音ではないが,ラグタイム作曲家のスコット・ジョプリンによる自動ピアノのピアノ・ロールなんてのもあった.

St. Louis TickleがBuddy Bolden's Blues似なのは,知っている人はとっくに知っていたことのようで,ArcheophoneのCDの解説書を見ると,「ジェリー・ロール・モートンはBuddy Bolden's Bluesという名前で覚えていて,またFunky Buttとして知っている人もある」と書いている.そうか,Funky Buttという題名もあるのか.

ウチにあるCDに,Funky Buttのタイトルで録音されたものが入っていた.ミシシッピ・ジョン・ハートのものだ.

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2012年10月27日 (土)

Do I Have to Hesitate? (4)

ポール・オリバーによれば,Must I HesitateとかHesitating Bluesとかいう歌は「W・C・ハンディーやルイヴィルからきたスマイズとミドルトンの双方が一九一五年に著作権を登録する前から,あちらこちらの土地で記録されている」(引用終り,ブルースの歴史,晶文社)ということだ.どこの土地でいつ記録されているのか,情報を持っていないけれど,オリバーが言う通りなのだろう.

いろいろとHesitation BluesやHesitating Bluesを聞いてきたけれど,だいたいハンディの歌詞や,スマイズとミドルトンの歌詞は使っていない.ほとんどが楽譜より前から歌われていた民衆版なのだと思う.それに,メロディーとTell me how long, do I have to wait?/...Do I have to hesitate?というキーフレーズだけを変えずに,残りの部分は歌う人が創作するとか,他の歌から借用してたんじゃないか,というところもあって,いろいろな歌詞で歌われているようだ.

自分的に一番よく聞いたHesitation Bluesはリトル・ブラザー・モンゴメリーのもので,それでHesitation Bluesっていいね,と馴染んだものだった.彼は何度か録音しているけれど,1960年にフランシス・ウィルフォード・スミスが録音してMagpieから出たものとか,1972年のStoryville録音とかを聞いていた.彼のはNow, mama, mama, can't you see...と始まって,もちろんハンディらが楽譜で発売したものとは異なる.

第二次大戦前のレース・レコードとして発売されたHesitation Bluesは,だいたい「民衆版」ではないかと思う.ウチにあるのを色々かき集めたら,こんな感じだ.

  • Sara Martin & Eva Taylor, Hesitation Blues (1923年7月), CD: Document DOCD-5395.
  • Sam Collins, Hesitation Blues (1927年8月), CD: P-Vine PCD-2431.
  • Walter "Buddy Boy" Hawkins, Voice Throwin' Blues (1929年6月), CD: Document DOCD-5035.
  • Jim Jackson, Hesitation Blues (1930年2月), CD: Document DOCD-5115.

これらの中で,ジム・ジャクソンだけは,Hello Central, what's matter with the line?とハンディ版の歌詞で始めるが,第2ヴァース以降は,I'm going to the river with a rope and rock...と別の歌詞になっていく.このジャクソンのものは軽快で歯切れ良く,爽快感がある.

サム・コリンズのも相当速いテンポで,歌詞はなんだかよく聞き取れないが,ジャクソンのものとは違うようだ.最初のヴァースはリトル・ブラザー・モンゴメリーの72年バージョンで途中に出てくるNow, take your hesitating stocking, take your hesitating shoe/He takes a hesitating woman, to sing those old hesitating bluesと同じとは言わないが,共通のところがあるように聞こえる.そうだとすればモンゴメリーのバージョンと緩やかにつながっていることになる.

タイトルではそれと分からないバディ・ボーイ・ホーキンズのものだが,途中で腹話術みたいに声色を使い分けるという,不思議な芸を聞かせる.サラ・マーティンとエヴァ・テイラーのコンビは,いかにも楽譜版ブルースを歌いそうなヴォードヴィル・ブルース歌手だが,意外にもハンディ版でもスマイズ/ミドルトン版でもない.ゆったりとしたテンポで,最初1ヴァース何かのブルースを付けて,それからHesitation Bluesの形式になる.これも歌詞は違うようだ.

フィールド・レコーディングのものもいくつかある.

  • Leadbelly, Hesitation Blues (1935年2月), CD: Rounder 1097.
  • Jelly Roll Morton, Hesitating Blues (1938年), CD: Rounder 1091.
  • Smith Casey, Hesitating Blues (1939年4月), CD: Document DOCD-5231.
  • David "Honeyboy" Edwards, Hellatakin' Blues (1942年7月), CD: Earwig 4922CD.

レッドベリーのは Got (?) hesitating stocking, hesitating shoe...で始まる.これはサム・コリンズのバージョンと共通するから,ルイジアナ州の一部では,この型だった,と言ってよいのかどうか...

ジェリー・ロール・モートンのはIf I was a whiskey and you was a duck...と始まるが,これは他の歌にありそうだ.リラックスした歌と演奏で,美しいピアノ・ソロもある.

テキサス州で刑務所暮らしをしていたスミス・ケイシーのは,I woke up this morning, half past four...とかT for Texas, T for Tennesseeとか,聞いたような歌詞をつなぎ合わせているようだ.この人は本名はケイシー・スミス,CDの解説書によると,服役中に「塀の中の30分」というラジオ番組を持っていたそうだ.囚人に放送させるなよ,無茶だなあ.

ハニーボーイ・エドワーズのは,Hesitating stocking, hesitating shoe/Hesitating woman, get your hesitating bluesというような文句を繰り替えして47秒で終わる.レッドベリー,サム・コリンズ,リトル・ブラザー・モンゴメリーのバージョンを並べると,この歌詞が民衆版Hesitation Bluesでは割と広まっていたもの,ということになるかな.

そういえばハニーボーイ・エドワーズ,東京の有楽町で見た.Hesitation Bluesなんてやらなかったと思うけど.あれは,いつのことだろう,と思ったら1978年,34年も前のことか.やれやれ,月日のたつのは早すぎるよ.

Sunnylandhoneyboyticket

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2012年10月26日 (金)

Do I Have to Hesitate? (3)

W・C・ハンディのThe Hesitating Bluesの方は出版と同じ年,1915年10月にプリンスのバンド(Prince's Band)が録音している.これもCD化されていて,ビクター・ミリタリー・バンドのHesitation Bluesと同じCDに入っている.ビクター・ミリタリー・バンドのバージョンと同様にインストゥルメンタルのダンス音楽として演奏されている.

プリンスのバンドを率いていたのはチャールズ・プリンス(Charles Adam Prince)で,この人は1869年サンフランシスコ生まれだそうだ.彼の楽団は1891年には録音したというから古い人だ.色々なダンス音楽のレコードを作っている中で,1910年にI'm Alabama Boundの録音があったのに驚いたものだ.

黒人のミュージシャンで,ハンディ版を最初に録音したのは誰だろう.ジェイムズ・リース・ユーロプ(James Reese Europe,カタカナ表記はこれでいいんですかね)の楽団が1919年3月に録音したものだろうか.その録音はCDで聞くことができる.1880年生まれの彼は,1913年には録音をしていて,ジャズ直前みたいな位置づけで重要視されている.彼はバンドリーダー,作曲家として成功していたようだが,運が悪いことに,1919年の5月に楽団のドラマーに刺し殺されてしまう.

1919年には初期のジャズ・バンド,アート・ヒックマン楽団(Art Hickman's Orchestra)の録音などもある.

さて,チャールズ・プリンスとかジェイムズ・ユーロプのバンドの録音は,大編成のバンドによるインストゥルメンタルだが,ハンディの出版した楽譜にはちゃんと歌詞もついている.楽譜はDavid A Jasen (Ed.), Beale Street And Other Classic Blues, Dover Publicationsに収められていて,その表紙は,ご婦人がクラシックな電話機で,いやクラシックといっても1915年としては最新のcandlestickタイプだろうけど,どこかに電話中,というイラストになっている.歌の文句は,“Hello Central, what's matter with this line?”と,電話の交換手に恋人への接続を申し込んでいるんだけど,嵐で回線が吹っ飛んでいて,というストーリーになっている.

Handyhesitatingblues

しかし,この最初の歌詞,誰かが歌っていたものを借用したんじゃないかね.“Hello Central”という文句,ブルースの歌詞にときおり出てくるのは,もともとよく歌われていたんだろう.ライトニン・ホプキンスとか,チャーリー・パットンのPony Bluesにも出てくるし,他にもある.スティーヴン・カルトは,Barrelhouse Words (University of Illinois press)の中で,Centralとは電話交換手の時代遅れの呼び方,としている.

また,カルトは,1901年の流行歌Hello Central, Give Me Heavenのせいでブルースの歌詞に“Hello Central”という文句が広まったのかもしれない,としている.ポール・オリバーも,この歌がブルースと黒人ポピュラーソングに影響したとしている(Songsters & Saints, Cambridge University Press).このHello Central, Give Me Heavenというのは,チャールズ・K・ハリスという人物が作って出版した歌だ.どんな歌かというと,カリフォルニア大学サンタバーバラ校の蝋管レコードアーカイヴで1901年録音や,1902年録音を聞くことができる.当然ながらブルースのブの字もない音楽なのだけど.

さて,カルトの本を見ても,なぜ交換手がCentralなのか分からない.これは,多分,電話が手動交換だった時代,交換手の居る電話局をcentral officeと言っていたからじゃないかと思う.“Hello Central”といったら「もしもし交換台」みたいなことだろう.

ハンディがHesitation Bluesを出版した1915年は,ぼつぼつ自動交換機が導入されていたはずだ.それでも,交換手に手動でつないでもらう,ということも普通にあったのだろう.

さて,Hello Centralで始まるW・C・ハンディのハンディのThe Hesitating Blues,歌ものとして最初に録音したのは,ニューオーリンズ出身の女性歌手,エスター・ビジョウ (Esther Bigeou) の1923年録音だろうかね.

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2012年10月16日 (火)

Do I Have to Hesitate? (2)

スマイズとミドルトンが1915年にHesitation Bluesを出版すると,翌1916年9月にはビクター・ミリタリー・バンド(Victor Military Band)がレコードを録音している.ビクター・ミリタリー・バンドは名前通りVictorレーベル専属で,色々なダンス音楽を録音していたとのことだ.白人のバンドだけれど,Memphis Blues,Joe Turner Blues,Ballin' the Jack等,黒人起源の曲も録音している.このバンドによるHesitation Bluesの1916年録音はCD化されている.収録CDについては次のところに書いておいた.

http://homepage3.nifty.com/sohta/old-recordings.html#military

ビクター・ミリタリー・バンドの録音はインストゥルメンタルだけれど,1919年6月には歌入りバージョンが録音されている.これはWikipediaの記事で知ったのだけれど,アル・バーナードがEdisonレーベルのシリンダー・レコードに録音したものだ.その音はカリフォルニア大学サンタバーバラ校がMP3化して公開している.

カリフォルニア大学サンタバーバラ校のアーカイヴ

このシリンダー・レコードのディジタル化プロジェクト,FAQを見ると,非商用ならばMP3ファイルを自由に利用,共有,配布してよい,ということで寛大なものだ.ファイルを見ていくと他にも興味あるものがいくつもあって面白い.このアル・バーナードのエジソンのシリンダー,意外と良い音だ.

アル・バーナードが歌うスマイズとミドルトンのHesitation Blues,軽快で,楽しく聞こえる.歌は“I'll go down to the levee, take a rocking chair/If the blues doesn't leave me, I'll rock away from here"と始まる.Peter MiurのLong Lost Bluesによるとこの歌詞をペリー・ブラッドフォードが別の歌に流用したことがあるそうだ.

アル・バーナードは1988年11月23日,ニューオーリンズ生まれの白人歌手で,1919年に初録音をしているが,St. Louis Blues,Beale Street Blues,Bluin' The Bluesという具合に楽譜として出版されたブルース曲を色々録音している.CDで聞ける曲で1921年のFrankie And Johnnieなんてのもあった.ちょっとした白人ブルースの草分けじゃないだろうか.

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2012年10月14日 (日)

Do I Have to Hesitate? (1)

音楽の売り方は,今はダウンロード販売,つまり物と結びつかないディジタル情報だけを売る形式が増えつつあるようだ.この売り方は部屋に物がたまらないという点で具合がよい.そうはいっても,今も音楽CDはビジネス上大事だろうし,円盤型のものにディジタルまたはアナログ形式で音楽情報を記録し,円盤ごと音楽を売ることが100年くらい続いている.それ以外にも円筒杖のレコードとか自動ピアノのピアノ・ロールとかオルゴールとかの形式でも音楽は売られた時期がある.しかし,レコード普及以前の音楽の売り方は,シート・ミュージック,楽譜によるものだった(ということでいいんでしょ?).

ブルース音楽でも楽譜形式で「ヒット」したものがある.レース・レコードができる以前のブルース音楽の様子は,楽譜として出版されたものに反映されている.この点に着目して,1920年以前のブルースの姿を明かにすべく,楽譜として出たブルースを詳細に分析した本なども出ている(Peter Muir, Long Lost Blues, University of Illinois Press).

さて,楽譜として出版されたブルース曲の中には,曲の作者が自身のオリジナリティによって本当に自分で作った,というものももちろんある.一方で,もともと誰かが歌っていた歌を,そのままというのはアレだから,ちょっと改変して「自分の作です」といって出版しちゃう「作曲家」もあったと思われる.W・C・ハンディとか,そのような人だろうと思う.そんなので良かったのか,とは思うが,そうやって出版され楽譜がある音楽ならば,レコードはなくても,昔どんな音楽があったかをたどることができるから,それなりに意味はある.

古いブルースでよく聞く歌の一つにHesitating BluesまたはHesitation Bluesというのがある.この歌は1915年7月にW・C・ハンディがThe Hesitating Bluesとしてコピーライトを取得しているが,その5週間前,白人作者であるビリー・スマイズ(Billy Smythe)とスコット・ミドルトン(Scott Middleton)のコンビがHesitation Bluesとして既にコピーライトを取得していたという.ハンディはスマイズとミドルトンの楽譜を見てあせって自分も出版したのかもしれないが,これらは両方とも,誰かが歌っているのを改変して自分の作として発表したものだ.元歌は,誰かが作ったのに違いないが,本当の作者は今となっては分からない.

楽譜が出版されてから多くの録音がされることになるけれど,スマイズとミドルトンのバージョン,ハンディのバージョン,それらの出版以前から歌い継がれてきた民衆バージョン,と入り乱れている.これらのバージョン,メロディーと「Tell me, how long do I have to wait... have to hesitate?」というキー・フレーズだけは共通している.これらの整理はまた次回.

参考:Wikipedia

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始めるよ

ブルース音楽をいろいろ聞いていて,特に長く歌い継がれてきた古い曲のことが分かると面白い.そういうのをここにメモしておこうと思う...けれど,どれくらいできるかなあ.

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