これは,むらた まことさんに教えて頂いた逸品.
Johnny Thompson, So Much Going For You Baby b/w Bell Bottom Sue, Checker 1163.
Sleeper...
このレコード,1960年代のブルースとしては,素晴らしい作なのだが,The Blues Discography 1943-1970にも,その前身のBlues Records 1943-1970にも出ていない.さらに,The R&B IndiesのCheckerの項を見ると,このレコードの番号Checker 1163は,アーティスト名も曲名も空欄になっている.このレコードが作られたのは1966年頃のようだが,それから40年くらいの間,誰も気がつかなかったということだろうか?この45回転盤は,近頃の相場からすればごくフツーの値段でつい最近買えたのだが,それは今でもその価値があまり知られていないから,なのだろうか?長い間忘れられていて,急に価値の出る骨董品や競馬の穴馬のことを英語でsleeperというのだそうだが,このレコードなんかは本当にsleeperだろう.しかし,そろそろ長過ぎる眠りから目覚めさせるべき時期なのではないか.
今後,ブルースのディスコグラフィには,Johnny Thompsonの項に次の2曲を追加しなければならない.
Chicago, circa 1966
Johnny Thompson, Vo; unknowns gtr, saxes, p, org, b, d.
14971 Bell bottom Sue Checker 1163
14972 So much going for you baby Checker 1163
その音楽
So Much Going For You Babyに針を降ろす.すると,ごく短いベースのソロに続いて,深みのある声で歌が始まるのだが...何ですか,この本格派のスロー・ブルースは?ジョニー・トンプソンは誰に似ているということもないが,B・B・キング以降のスタイルで,同じ時代の歌手だったらDukeのジェイムズ・デイヴィスとか,シカゴの人ならアーティー・ホワイトとか,そういうジャンルの人のように聞こえる.伴奏の方はギターもホーン陣も地味に聞こえるが,厚みのある,緊迫感のある音で歌を最大限に引き立てている.名門チェスでこれだけのものを作ったら,この人,もうちょっと売れて欲しかったところだ.
Bell Bottom Sueは歯切れの良いシカゴR&B.曲の形式や歌の文句は12小節AAB形式のブルースを元にしているようで,ブルース畑から出てきた人らしく思われる.
A. Williamsのこと
両面とも曲の作者はJ. Thompson - A. Williamsとなっている.このA. Williamsだが,Aで始まる名前は色々あるけれど,アンドレ・ウィリアムズだと思って間違いないだろう.レーベルにはプロデューサーの名前は見えないが,プロデュースも彼だろうか.アンドレ・ウィリアムズ自身がアーティストとしてCheckerでレコードを出したのは,レコード番号からいっても,マトリックス番号からいっても,もう少し後だろう.しかし,彼はコンポーザーとしても既にヒット作を出していたから,その実績を買われたとすれば,自身の録音以前から楽曲の作者としてチェスに出入りしていたのかもしれない.
ジョニー・トンプソンとアンドレ・ウィリアムズのつながりを示すレコードはまだある.トンプソンは1970年台にNewmissというレーベルから,シングル盤Mainsqueeze b/w I Lost Everything, Newmiss 777-1を出している.これは割と格好良いファンク曲とごくブルージーなソウル・バラッドの組合せだが,2曲とも作者はAndre Williamsとなっている.ウィリアムズとしてはジョニー・トンプソンに売れる可能性あり,と見て曲を提供していたものか.
現役ブルーズン・ソウル・シンガー
謎めいているジョニー・トンプソンだが,今,彼は自身のレーベルJ-Tを持っていて,そこからCD,Johnny "T" Thompson, Girl I Love You (J-T 93984)を出している.CDの売り文句によれば,シカゴ出身の彼は,現在はフロリダ州オーランドに居るのだという.彼の最初のレコードはここで紹介したChess/CheckerのSo Much Going For You Baby,2作目は上述のNewmiss盤だそうだ.もっとも,そのNewmiss盤が全国ヒットした,というのは信じ難い.そんなに当たった曲があったら,もう少し有名になっていたんじゃないか,と思う.
CDの収録曲を見ると,The Town I Live In(マッキンリー・ミッチェル),There's Something On Your Mind(サニー・ワーナーとビッグ・ジェイ・マクニーリー),Cut You Loose(リッキー・アレン),Got To Find A Way(ハロルド・バラージュ)という具合にR&Bやシカゴ・ソウルの古典曲が見える.このレパートリーを見ると大体どういう位置に居た歌手なのか分かるようだ.
また,彼はビル・ピンクニーのオリジナル・ドリフターズに何年間か参加して,世界中巡業してた,などという経歴もあるそうだ.もしかすると,ドリフターズの一員として日本の土も踏んでいるのかもしれない.
今後,CDをきっかけとして, 「伝説のチェス・レコーディング・アーティスト」みたいな感じで遅すぎる脚光を浴びる可能性もある,かな?