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2012年3月 3日 (土)

ぬしは今メンフィスあたり(3)

その映像を最初に見たのは,この前の日曜日の朝のことだった.なんとなくテレビをつけて,チャンネルをザッピングしてたら,見覚えのあるようなないような人たちが映っていて,音楽を演奏していて,そこに何故か米国大統領も居て,手拍子なんかしている.坊主頭の人(後でバディ・ガイだと分かった)に歌えるんでしょ,なんて言われて大統領がマイクに向かって歌う歌がSweet Home Chicagoなのだ.なんだ,こりゃ.自分は寝ぼけたのかと思った.米国大統領がSweet Home Chicagoを歌うのか.そんなこと,あるのか.

YouTubeに映像が上がっている,と教えていただいて,そのときの映像を色々見てしまった.ホワイトハウスに招かれたのはB・B・キング,バディ・ガイ,ミック・ジャガー等々.すべての層に喜ばれる必要があるだろうから,白黒老若バランスよく,というのは必須だな.ミック・ジャガーがI Can't Turn You Looseを歌い終えて,呼吸を整えながらサニー・ボーイ・ウィリアムソンの想いでを語ったりしていて,面白い.「サニー・ボーイはねえ,お前らエゲレス小僧のブルースは本当にダメだ,なんて言うんですよ.本当にダメだ,ですよ」とかなんとか.

それで,「次はハウリン・ウルフの歌をやります」といって始めるのがCommit A Crime,だ.ほう,Commit A Crimeときたか.これは凄い曲だがシングル盤でもChessのLPでも発売されず,聞けるようになったのは1980年代になってからだったと思う.ジャガーは,スーパースターになったその頃でも,ウルフの未発表曲,などといえば飛びついたのだろうか.それでは我々同然だから,そんなことはないか.飛びつきはしなくとも,有名でない曲を引っ張り出すあたり,案外いい人だ,なんて思ったりした(いい人の基準がヘンですかね).

ホワイトハウスで,大統領の御前で演奏する,というのは栄誉であって,招かれたブルース屋,ロック屋の皆様にはお慶び申し上げたい.しかし,思うのは,大統領がブルースを聞くなどと考えることもなく消えて行った多くの人のことだ.ゲイリー・クラーク・Jrとかいう若い衆Catfish Bluesを演じているが,この歌を初めてレコード(もっと古い歌かもしれんけど)にしたロバート・ペットウェイがこの様子を見たらどう思うだろうか.ペットウェイには想像もつかないことに違いない.司会者が,「エディー・ボイドの古典,Five Long Yearsです」といって,ジャガー,クラーク,ガイがFive Long Yearsを順番に歌ったりする.米国を脱出し,ヨーロッパに定住し,そのヨーロッパでもレイシズムのあることに不満を言っていたエディー・ボイドの作った歌が,米国大統領の前で,白黒混成バンドで演奏されるのは皮肉なことのように思う.

エディー・ボイドのレコードというと,シカゴ録音か,そうでなければヨーロッパ録音という感じだが,それ以外の土地でもいくらか録音をしている.これはメンフィス録音だが,本当に素晴らしい作品だ.

Eddie Boyd, It's Too Bad b/w Vacation From The Blues, Mojo 2167.

Mojo2167 録音は1960年で,ウィリー・コブスのYou Don't Love Me (Mojo 2168)と同じセッションで録音されたものだそうだ.リコ・コリンズのテナーサックス,ウィルバート・ハリスのドラム,ウィリー・コブスがベースを弾いていて,それでギターがサミー・ロウホーン,というメンバーとなっている.

It's Too Badはミディアム・テンポのブルースだが,大変な充実ぶりだ.歌詞の一番最初はビッグ・メイシオのTuff Luck Bluesと共通しているけれど,作詞力のあるボイドだけに,すぐに独自の歌詞に切り替わる.熱気のあるバックに支えられ,ボイドは1ヴァースごとに変化をつけながら気力十分にブルースを展開していく.それに絡むサミー・ロウホーンのギターが,さすがに天才的なもので,間奏のソロも含め見事だ.それにしても,この傑作がコブスのYou Don't Love Meと比べてもあまり有名でないのは残念なことだ.

Vacation From The Bluesは,La Salleレーベルにも録音していて,そちらはLPやCDでリイシューされていた.そのLa Salle録音のこの曲が割と好きで,LPでよく聞いていた.うきうきするような,楽しげな曲調で,♪休暇をとろう,ブルースを忘れられるかも,と歌っている.このMojo録音は,La Salleのものよりさらに出来が良いと思う.こちらもサミー・ロウホーンのギターは大活躍だ.

優れたシンガー・ソングライターでピアニストのエディー・ボイド,JOBやChessで代表作を作ったが,このMojo盤の出来も見劣るものではない.Five Long Yearsの作者として名前が出るだけでなく,もっと聞かれるようになって,このメンフィス録音の価値なども知られてほしいものだ.

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