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2009年9月13日 (日)

ギャンブラーのブルース

1970年代にアーカンソー州でレコードを出していたブルースマンとしては,カルビン・リーヴィは有名人の部類だろう.カルヴィン・リーヴィ,世間の評判はどうなんだろう.Cummins Prison Farmはヒットもしたし,良い作品ということで異義なし,なんだけど.純粋に音だけを聞く限り,Cummins Prisonを除けばローカルな,いささか地味めの中堅ソウル・ブルース・シンガーで,ギタリストとしても悪くはないけど,てなところだろうか.でも,実は,この人の個性は,すんごい辛口の歌詞を歌う人,という点にあるのではないか.そう思うのはP-VineのLPの一番最後に入っていた印象的なブルース曲のBorn Unluckyとか,曲調は明るいI've Got Troublesとか,ずいぶんキビシイ境遇のことを歌っているのがあるからだ.1973年に出た2パートに及ぶこの傑作も苦い内容のように聞こえる.

Calvin Leavy, Goin' To The Dogs Pt.1 b/w Goin' To The Dogs Pt.2, Soul Beat 111.

Soulbeat111 賭博絡みのブルースは昔からあった.戦前の,古い曲だったらGeorgia SkinとかCoon Canとかがときどき歌の文句に出てくる.ペグ・レッグ・ハウエルのSkin Game Bluesとかメンフィス・ミニーのGeorgia Skinとかに出てくるGeorgia Skinというのはトランプ博打のようだ.ピーティー・ウィートストローのCoon Can Shortyで歌われるCoon Canというのはサイコロ博打らしい.戦後録音でも無論いろいろあるだろうけど,サイコロ博打の歌ではビッグ・チーフ・エリスのDices, Dicesとか,トランプ博打だったらJ・T・ブラウンのBlack Jack Bluesとかはよく印象に残っている.競馬の歌もある.ジョン・リー・フッカーが「女が競馬狂いで困る」と唸るPlayin' The Racesとか,「馬に賭けるなんて割に合わない」なんて言われるチャールズ・ブラウンのRace Track Bluesなんかがそうだ.競馬がちらっと出てくる,という程度なら当ブログで取り上げた曲のなかにもある.そう言えば前回のMy Race Hossは競馬の歌とは言えないけれど,競争馬の比喩を使った歌だった.

米国のギャンブル・スポーツでは,競馬の他,ドッグレース,ハイアライが盛んだ,と昔何かで読んだことがある.米国人のドッグレースに対するイメージってどうなんだろう?ルーツが貴族のスポーツである競馬と,ドッグレースを比べりゃ,ドッグレースは競馬のマイナーな代替品みたいな,場末っぽい感じじゃないのか.間違ってるかもしれないけど.

競馬の歌はそこそこある一方で,ドッグレースをネタに選んだ曲って他にあるんだろうか.リーヴィがドッグレースに溺れる男の歌を発想した元は,彼自身の体験なのか,誰か知っている人のことなのか,分からない.検索してみると,アーカンソー州にもウェスト・メンフィスにSouthland Parkというドッグレース場があるそうだから,リーヴィがドッグレースに馴染があったとしても不思議なことはない.ドッグレースを題材に選んだことで,ただ珍しい,という以上にギャンブラーとしての玄人っぽさや,わびしさが感じられるような気がする.

曲は出走ファンファーレのメロディーをギターで弾くイントロから始まる.このイントロからしてもの悲しいものを感じてしまう.それで,ゆったりとしたビートの,メランコリックな伴奏にのってリーヴィは切々と歌っていく.歌の主人公の男はドッグレースで負けが込んで借金漬けになっていて,家もなにも差し押えられている.そんな家の居心地が良い筈は無い.それで,男は外に出掛けるが,その行く先はまたしても近所のドッグレース場になってしまい,そこで取ったり取られたり,取られたり取られたりして一日を過ごしてしまうのだ.

女のもらう生活保護をすっちまった
一日二重勝で勝負してたんだ
それで家に帰ったら案の定
とんでもない騒動になったのよ

歌の文句にあるdaily doubleというのは,特定2レースの1着を当てる馬券,いや,これは犬だからワン券で,日本語にすると一日二重勝となる.聞いていると,この男がドッグレースを本当に好きなのかどうか,分からなくなってくる.嫌いでもないだろうが,ギャンブルの興奮も陶酔も歌には全然出てこない.むしろ自分が狙った犬がいつも来ないのでうんざりしているようでもあるし,ギャンブル依存を後悔しているようでもある.それでも自分の家は借金と争い事だらけで,男は心休まる唯一の場所であるドッグレース場からどうにも離れられないのだ.

歌の世界がこれで伝わったのかどうか分からないが,素晴らしい作品だと思う.日本盤のLP/CDには入らなかったが,海外でCDリイシューされているようだ.

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コメント

うわぁ、凄い内容ですね。私が所有するPヴァイン盤CDには未収録で残念無念。大変聴いてみたいです。
しかしGeorgia SkinやCoon Canといった表現、文化も言語も時間も国も、全てが離れている我々にはなかなか知りえない言い回しですね。勉強になります。
こちらを読んでてなぜか私の記憶にフと浮かんだのが、「Three Ball Blues」というタイトルの曲。誰の作品だったのか即座には思い出せず、CD棚を探してるとBlind Boy Fullerのものでした。何やら貧しい男が質屋でなんとか金を得ろうとする内容のようですが、この「Three Ball」というの表現が謎。ラスト・バースで質屋に「壁に釣り下がったこの三つの玉は何なんだい?」と尋ねたら、「二対一さ、ここから物を引き出すことはできやしない」、みたいに言われるのがオチのようですが、はて、どういう意味なのか。果たしてアメリカの質屋にはThree Ballがぶら下がっているのだろうか、そこんとこも不明で。Fullerに縁の深いSonny Terry & Brownie McGheeのSittin' In録音にほぼ同内容の「Pawn Shop Blue」というのがありましたが。ムムム。
賭博のブルースとは逸脱して失礼ですが、三玉の意味をご存知でしたらご教示願いたいです。

投稿: 輪高 | 2009年9月13日 (日) 22時14分

> 果たしてアメリカの質屋にはThree Ballがぶら下がっているのだろうか

これ,あっさり分かりました.アメリカの質屋には玉ころが3つぶら下がっているそうです.ほれ,この通り.

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/0/0e/Pawnshop_with_sign.jpg

これは向こうのwikipediaのpawnbrokerの項にあった写真ですが,3つ玉の本当のいわれも書いてあります.

http://en.wikipedia.org/wiki/Pawnbroker#Symbol

投稿: BackDoorO | 2009年9月13日 (日) 22時53分

手間を掛けさせてすみませんでした。何事も、「ウィキ」ったりネットで調べたら解明する時代ですね。三つ玉は質屋のルーツといわれるイタリアのどこかの地方の一族の由来のようで。"Two to one, you won't get your stuff back"は古い言い回しのようですね。さすがUSAは他民族国家、金欠ブルースの歌詞にも取り上げられた三つ玉シンボルの意味がわかりました。有難うございました。

投稿: 輪高 | 2009年9月14日 (月) 07時35分

"Two to one, you won't get your stuff back"をこうやってダブルクォーテイションで囲って,googleにぶち込むと,質屋関係の文書に引っかかりますね.向こうでは知られた質屋の法則みたいです.「2回質にいれれば,1回は流れる」と解釈しましたが,どうでしょうねえ.

投稿: BackDoorO | 2009年9月14日 (月) 21時29分

「2回質にいれれば,1回は流れる」、ほんとそんな感じでしょうね。質屋が題材のブルースって、私は他にB.B.Kingで「Mr. Pawnbroker」というのが思い浮かびますが、案外少ないのでしょうか。歌詞にPawn Shopが出てくるのはある気がしますが。堅実にhard workに精を出しても報われないと、酒やギャンブルや、たまには質屋に走らざる得ない状況に…ってな事も。

投稿: 輪高 | 2009年9月14日 (月) 22時19分

質屋が直接タイトルに直接入っている曲っていうと,ピーティー・ウィートストローにPawn Broker Bluesっていうのがあって,婦人客専門みたいなヘンな質屋ですが,B・Bの曲の元歌がこれじゃないでしょうか.ルシール・ボーガンのデビュー曲はPawn Shop Bluesというらしいですが,これは多分聞いていません.最初期のボーガンは歌が下手という印象があるので,手が出ません.モノが質に取られてるっていう文句はときどき聞くように思いますが(実はGoin' To The Dogsにも),質屋そのものがテーマってあまりないかもしれません.

投稿: BackDoorO | 2009年9月15日 (火) 21時33分

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