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2007年5月 7日 (月)

ブルース洪水暦

フェントン・ロビンソンのMississippi Steamboatとほぼ同時にラリー・デイヴィスも録音ををしている.デイヴィスのデビュー・セッションだが,彼としては最も有名な曲が生まれている.

Larry Davis, Texas Flood b/w I Tried, Duke 192.

Duke192 Texas FloodはLP時代にもリイシューされていたし,CDではThe Best Of Duke-Peacock Blues (MCA 10667)にも入っていたしで,誰しも馴染み深い方だろう.デイヴィスは馬力のある太い声で,思いっきり歌っている.恐ろしい自然災害をテーマにしたスロー・ブルースである.

「テキサスで洪水だ,電話はまるで通じない」というのが歌い出しの文句だが,大規模な水害が発生すると通信設備に被害が出て,公衆通信が途絶するのは日本国でもよくあることだ.水害で通信が途絶するのは理由があるのだが,関係ないのでここでは書かない.

日本国でも水害は毎年のように繰り返され,珍しくないが,米国の洪水のニュースもちょいちょいある.ブルースの歌の文句で自然災害が取り上げられることはあまりないけれど,洪水の歌というのはときどきある.例えば,巨人マディ・ウォーターズにはあまり有名ではないが,素晴らしいFloodという題名の作品がある.もっとも,1953年に録音されたこの歌,直接水害のことをテーマにしているわけではなく,「外に出て,天気をごらん,洪水にでもなりそうだ」という文句が出てくるだけだ.しかし,不穏な天気なら豪雨,豪雨になれば洪水,という感覚が身についている人だから出てくる歌詞ではあるだろう.

近年の米国の水害で記憶に残るのは2005年にハリケーン・カトリーナによってニューオーリンズで発生したものだろう.その一月後だったか,二ヶ月後だったか,とにかく間もなくして今度はテキサス州にもハリケーンが接近し,被害が心配されたことがあった.幸いなことに,結局さほどの被害は出なかったのだが,ガルベストン(水没するだろう,と言われていた),ボウモント,ポートアーサー,ヒューストンなどテキサス南部の都市が被害の恐れあり,と報道されていた.これら報道で耳にしたテキサス南部の都市は,昔々,サンタフェ・グループと呼ばれるピアニスト連中が流れ歩いた土地でもある.この手の連中の代表格,ジョー・プラムとロブ・クーパーのコンビがMississippi Flood Bluesというのを1935年に録音している.よく分からないが,ミシシッピで被災した女を心配している,という内容のようだ.音楽的には,このコンビならではの世界,と言えば分かる人には分かる.

ラリー・デイヴィスがTexas Floodで歌った洪水が何年何月,テキサスのどこで起こったものなのか,ちょっと分からない.しかし,1927年4月から5月にかけてミシシッピ州で発生した洪水は米国の歴史に残るような大椿事だったようだ.このときのことを歌ったと思われるのが1929年10月に録音されたチャーリー・パットンのHigh Water Everywhere Part 1 & 2だ.これは,もう凄い,としか言いようがない.チャーリー・パットンで1曲選べ,と言われたらHigh Water Everywhere Part 1だと思う.凄まじい音楽を通じて,災害の恐怖,当時の人々の無力感が伝わって来る.むりやり感情を抑え込むようにして惨状を歌うPart 2がまた良い.洪水モノのブルースとしては最高傑作だろう.

パットンと同じ時代のミシシッピ州のカントリー・ブルースで,女性シンガー・ギタリストのマティー・デラニーは1930年2月に録音したTallahatchie River Bluesは同じ洪水のことを歌っているのかどうか分からない.「タラハッチー川が溢れて,家財を全部無くした人もいる...水かさ増していて,泳げるわけない」とかなんとか歌うこれも心に残る佳作だ.

話をラリー・デイヴィスのTexas Floodに戻すと,メンバーはフェントン・ロビンソンのMississippi Steamboatと同じとされていて,ロビンソンの他,ジェイムズ・ブッカーなどが伴奏している.このときギターを弾いていたフェントン・ロビンソンはTexas FloodをAlligatorのアルバムで取り上げていた.カバー・バージョンではルイジアナのハーピスト,ウィスパリング・スミスがStorm In Texasという題名で,ハーモニカ吹き語りというスタイルでやっていたバージョンが異色だった.このスミスのものはSwamp Blues (Ace CDCHD661)でCD化されている.

裏面のI Triedはアップテンポのブルースだが,フェントン・ロビンソンが気合いの入ったギターを弾いていて,こちらも十分に格好良い.

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コメント

洪水のブルースはほんとに多いですね。しかしパットンもマディもラリー・デイビスもそれぞれ別の洪水を歌っているのだろうし、かなり頻繁に大水が起きていたのでしょう。ご紹介された数曲、少しずつ見つけていこうと思います。ブルースで他に災害が題材といえばハウリン・ウルフの「Natchez Burning」を思い出します。「ナチェッツの大火事」ということでしょうか。ピアノとウルフの遠吠えに、炎から逃げ惑う人々の恐ろしい情景を想像させられます。しかし久々に同曲を聴こうと「The Real Folk Blues」を探したのですが見当たらず…。

投稿: 輪高マリ | 2007年5月 8日 (火) 21時25分

> ハウリン・ウルフの「Natchez Burning」を思い出します。

ああ,アレはたまりませんよねえ.言われて思い出して自分もCD(ウチの場合はThe Chess Box)引っ張り出して久しぶりに聞きました.心に浸みいる,というか,歌の圧力が心に浸透してきます.

投稿: BackDoorO | 2007年5月 8日 (火) 22時51分

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