2009年11月 8日 (日)

天才二世あらわる

セネター・ジョーンズ制作のニュー・オーリンズ・ブルースでは,こんなのも良いと思う.

Bobby Powell, When You Move You Lose b/w Drifting Blues, Hep' Me 176.

Hepme176 両面ともCDで簡単に聞けるので,アナログのシングル盤を引っ張りださなくてもよいのだけど,まあ安かったし,お買い得な方だ.

ボビー・パウエルは,盲目で,ピアノも上手い,歌も上手い,プラス天才然とした雰囲気,ということで,どうもレイ・チャールズっぽく見える.別にレイ・チャールズの亜流ということもなく,声も歌い方も全然違い,独自の個性はある.と,言いたいところだが,Hep' Meではレイ・チャールズの有名曲をいくつかカバーしたりしていて,それじゃ「物真似ではない」というフォローをしにくいよ.

レイ・チャールズっぽいとなれば,ブルースのレパートリーも当然ある.なにしろ彼の代表的なヒット曲のC.C. Riderはゴスペル・ブルースの傑作だ.あれは素晴らしいと思う.まあ,レパートリーの平均値はそんなにブルースじゃないだろうけど.

このHep' Meシングル盤,1980年前後のものだが,ブルース成分は濃い.Drifting Bluesはもちろん,何度もカバーされたジョニー・ムーアズ・スリー・ブレイザーズのピアニスト,チャールズ・ブラウンの大有名曲.このパウエルのバージョン,オリジナルのメランコリックなクラブ・ブルースの面影はなく,熱いゴスペル・ブルースに仕立て直されている.これはこれでかなり聞き物だが,別にDrifting Bluesの歌詞を使わなくてもよさそうな気がしないでもない.

When You Move You Loseの方はスローのソウル・バラッドだが,非常にブルージーな曲だ.ブルース形式ではないけれど,伴奏なんか,ほとんどブルースと言えそうな感じ.聞きごたえのある曲だと思う.

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2009年10月31日 (土)

スパイダーマンあらわる

セネター・ジョーンズの持っていたレーベルの中では,Hep' MeというのがLPも含めて多くのレコードをリリースしていた.ブルースもそれなりにあって,ウォルター・ウルフマン・ワシントンとか,ボビー・パウエルのゴスペル・ブルースなどが出ていた.

Willie Garland, New Orleans Blues In B Flat b/w I'm Goin' Back Home, Hep' Me VMNP-7242/7243.

Hepme7242 ウィリー・ガーランドという人は,1960年代にKentから出したシングル盤で知られている,いや知られてもいないだろうが,シンガー/ハーピストだ.Kent盤は1967年録音だけど,それにしては古すぎるスタイルで,それがちょっと良いのだけれどね.そのKent録音の3曲はP-VineでCD化されている(West Coast Modern Blues 1960's, PCD-3060).初録音は1955年で,ガーランド・ザ・グレートという,ちょっとプロレスちっくな名前で出たものだった.そのうちの1曲Hello Miss Simmsというのは,以前買ったStompin'レーベルのLPに入っていて,これが彼のハーモニカをフィーチャーした活きの良いインストゥルメンタルで,意外と格好よかった.同セッションのものが,UK AceのCD,Spark Records Story (CDCHD801)にも2曲入っているようだ.

今回のタイトルは相当に無理をしていて説明しないと訳が分からない.Kentで蜘蛛の歌(Black Widow Spider)を歌っていた人が意外なところから出てきた,と言いたくてこんなタイトルにした.Kent盤もガーランド・ザ・グレート名義のSpark盤もロサンゼルス録音,ということなので,ニューオーリンズのセネター・ジョーンズのとこからレコードが出れば神出鬼没感がある.なんかの都合で西海岸からニューオーリンズに引っ越したのかね.

それで,このレコードは1980年前後に出たものかと思う.出来の方は,どうもねえ,残念なことになった感じだ.I'm Goin' Back Homeという曲は,ミディアム・テンポの歌入りブルース.ウィリー・ガーランドのハーモニカにも歌にもすっとぼけたような,ひなびた味があるんだけれど,伴奏がモダン過ぎてどうにも合っていない.とても歌手の個性を考えてアレンジしたようには聞こえない.まさか,何か他の歌手用に作った伴奏トラックを適当にあてがったんじゃないだろうね.

一方,New Orleans Blues In B Flatの方は,アップテンポのインストゥルメンタルのブルースで,ガーランドがハーモニカのソロを聞かせるというもの.これも同じ様な印象で,バックとガーランドの反りが合わない.このホーンとか,全然無理っ,ていう感じだよなあ.

という訳で,文句は言いたいけれど,ウィリー・ガーランド自身はマイペースで音楽していて,Kent録音と変わらぬ個性を確認できる.

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2009年10月24日 (土)

歌いきった苦しい時代

1970年代の,南部産ブルースをもう一つ.

Eddie Lang, Mean Sad World b/w Bringing Back Those Old Days, Super Dome 505.

Superdome505 ニュー・オーリンズのブルースマン,エディー・ラングのレコードでは,このブログの最初の方でFood Stamp Bluesのことを書いた.そのときにはこのレコードを持っていなかったのだけれど,その後しばらくして入手できた.1970年代半ばに出たものだろう.

それで,Mean Sad Worldだけれども,このぐらい力のこもったスロー・ブルースを歌ってくれると良いねえ.Food Stamp Bluesよりずっとテンポを落とし,張りつめた雰囲気の中で,力強い声質を張り上げて歌っていて,大変な力作になっている.歌の内容は,Food Stamp Bluesの続編みたいな,生活の苦しさをぶちまけるもののよう.

Bringing Back Those Old Daysの方は分類すればミディアム・テンポのソウル・ナンバーだろうけど,これは楽曲,アレンジとも完成途上な感じ.ラングの声は良いと思うのだけれど.

プロデューサーは,ニューオーリンズでいくつかのレーベルを持って,多くのレコードをプロデュースし,自身もかなりレコードを出しているセネター・ジョーンズで,レーベルのSuper Domeも彼のレーベルだ.セネター・ジョーンズがプロデュースしたレコードにはいくつかブルースもあって,以前にとり上げたレコードではギター・レイ・ワシントンのものがそうだった.

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2009年10月17日 (土)

ひと休みの時代

前回はカルヴィン・リーヴィだったが,リーヴィと同じようにラリー・デイヴィスもアーカンソー州リトルロックに居た.デイヴィスは1980年代以降,P-Vineのライヴ盤,RoosterのFunny Stuff,PulsarのI Ain't Begging Nobody,BullseyeのSooner Or Later,と次々にLPを出して,比較的メジャーになったほうだと思う.これらのアルバムではスロー・ブルースの力作を多く収めたPulsar盤(EvidenceでCD化)なんかは良かった.その前,1970年代のデイヴィスは,レコードが少なく,停滞気味みたいな感じがある.

Larry Davis, Find-Em Fool-Em & Forget-Em b/w Same Thing, They Did To Me, Hub-City 629-73.

Hubcity62973 1973年に出たらしいこのレコード,デイヴィスが実力を出し切っているとは言えない.悪いとも言えないけれど.

Find-Em Fool-Em & Forget-Emはミディアム・テンポの,リラックスした雰囲気のブルースで,イントロなんかはちょっとジャズっぽい.ジョージ・ジャクソンがFameレーベルから出したものがオリジナルで,そう思うせいか,Z・Z・ヒルのDown Home Bluesとか,その系統のブルースのようにも聞こえる.この曲,聞きやすくて,悪くはないんだけれど,なんだか盛り上がらない.RoosterのLPでも再演していて,そのRooster録音ではファンク・ブルースにアレンジされており,全然感じが違う.聞き比べると,うーん,Rooster録音の方が完成度が高くて,上だろうなあ.このHub-City盤のだらだら感も良いけどね.

Same Thing, They Did To Meはファンキーなブルース.なんか,こーゆーの聞き覚えがあると思ったら,彼がVirgoレーベルに録音したけど未発表に終ったWhat They Do To Me(P-VineでCD化)と同じ曲,ていうか,...同じ録音じゃないの,これ.そうだとすると,このレコードのため新しく録音したのがFind-Em Fool-Em & Forget-Emの1曲だけで,B面にはVirgo用録音でレコードにならなかったのをこっそり入れてしまったのではないか.もうちょっとで生涯気が付かないところだったよ.

レーベルのHub-Cityだが,テネシー州メンフィスとジャクソン,と記されている.Same Thing, They Did To Meの作者はB・B・キング,となっているが,B・Bは録音してないんじゃないかな.

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2009年10月11日 (日)

帰還の日

またSoul Beatレーベルのものを.

Calvin Leavy, Free From Cummins Prison Farm b/w Enjoy Being Hurt By You, Soul Beat 118.

Soulbeat118 レーベルには1976年という表記がある.カルヴィン・リーヴィのLPを出す目的で日暮泰文さんがSoul Beatのカルヴィン・ブラウンと交渉していたのは1975年の夏だそうだから,このレコードの録音は同じ頃かもう少し後だろう.日本の会社から金が入ったからもう一丁やるか,というセッションだったんじゃないの,なんて想像する.

Free From Cummins Prison FarmはタイトルからしたってCummins Prison Farmの柳の下の二匹目のドジョウを狙った感じで,実際そのようなものだが,これがとても良い.こちらはCummins Prison Farmのような告発の歌ではなく,カミンズ監獄から釈放されたときの心境を淡々と歌っている.釈放が嬉しくないこともないが,それより無一文で刑務所から放り出されて困惑している,という歌のようだ.体験なんだか,創作なんだかよく分からないが,生々しいような気はする.

その日の朝,看守が俺のところにやってきた
手に何か書類を持っていて
俺の方を見て言ったのは
「これが出たから,お前は今日から自由の身だ」

それで,人の気配のないハイウェイへ出て
ポケットには小銭の一枚もなかったが
わが家へ帰ることにしたんだ
さんざん泣かせた家族のところへ

歌のメロディーがCummins Prison Farmそのまんまなので,どうしても二番煎じに聞こえて仕方ないが,それでもリーヴィの歌は説得力がある.伴奏はCummins Prison Farmよりダウンホームで,2本のギターなど,とても良いと思う.

その裏のEnjoy Being Hurt By Youもブルースで,こちらはファンキーなリズムを使った曲.悪くはないがフツーかな.

両面とも以前The Best Of Calvin Leavy (Red Clay 8303)でCD化されていたようだ.

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2009年10月 3日 (土)

消えた?ギター・スター(下)

ちょっといかしたギタリスト,フレッド・サンダースのアナログ・シングル盤は, Soul Beatレーベルに2枚あって(1枚は持ってない),あと 1984年にSamaというレーベルから1枚,の計3枚は少なくとも存在する.

Fred Sanders, I Like What I See b/w I Had A Feeling, Sama 050.

Sama050 このレコードが出る少し前,メンフィスで活動していた歌手兼ピアニストのビッグ・サム・クラークの録音にも付き合っている.ウィリー・フォスターのライヴ盤にも参加しているそうだ.allmusic.comを見ると,この人の(本当に同一の人なのか分からないけど)項目があって,2000年のCDが載っているから,消えたどころかディジタル時代になって録音が増えたくらいかもしれない.

それで,このシングル盤だけれども, Soul Beat盤と同じような印象かな.I Had A Feelingは前回のDon't Know What You're Doing To Meとよく似たスロー・ブルース.伴奏のアレンジはもう少しモダン.歌にきめ細かく応答するギターはよいけど,2コーラスに及ぶギター・ソロは沸点手前みたいな感じがする.歌は,キビシク言うと,非力な割におおげさで,魅力を感じない.全体的には普通すぎるギター・ブルースで,個性に欠けると言えるだろう.

I Like What I Seeは弾むようなリズムを持ったややテンポの速いブルース曲で,個人的にはこっちの方が良いと思う.歌は軽量級だけど,この曲では力が抜けて自然に聞こえる.女声コーラスが入るが,その使い方もよろしいのではないかと.ギターは格好よい.ということでこれは合格点.

レーベルにはメンフィスの住所が記されている.曲の出版社のPoppa Willie Music社というのはウィリー・ミッチェルと関係あるのかも.

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2009年9月26日 (土)

消えた?ギター・スター(上)

消えた,とタイトルに書いたけれど,多分消えてなくて,メンフィス辺りで元気にしていると思う.もういい歳だろうけどね.ただ,20年以上,フレッド・サンダースというシンガー/ギタリストに関するニュースを見ていなくて,この人がどうなったのかよく分からない.

Fred Sanders, Don't Know What You're Doing To Me b/w Across The River, Soul Beat 117.

Soulbeat117 Soul Beatレーベルの新人歌手として,フレッド・サンダースがこのレコードを出したのは1970年代前半くらいだから,軽く30年以上も前のことになる.その後の活躍はどうだろう,当時のプロデューサー,カルヴィン・ブラウンが期待した通りと言えるかどうか.

Don't Know What You're Doing To Meはメロウな,リラックスした感じのスロー・ブルース.フレッド・サンダースの武器はとにかくギターで,この曲でもイントロと間奏で熱いソロを聞かせている.歌の方は,悪くもないが,ギターに比べりゃもの足りない.伴奏はリズム・ギター,電気ピアノ,ベース,ドラムというシンプルなもの.

Across The Riverは速めなテンポのインストゥルメンタル・ブルース.終始サンダースがギターを弾いている.本人も伴奏陣も完璧ではないが,ギターの音色には魅力がある.

どうもメジャーにはなり損ねたフレッド・サンダースだが,ギターの才能は評価するべきだろう.

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2009年9月20日 (日)

玉葱の味わい

Soul Beatレーベルの主力アーティストはもちろんカルヴィン・リーヴィだけれども,それ以外のアーティストも何人かいて,こんな人もレコードを出している.

Willie Cobbs, Eating Dry Onions (Sitting In The Alley Crying For Bread) b/w Worst Feeling (I Ever Had), Soul Beat 112.

Soulbeat112 ウィリー・コブスは何度かカバーされたYou Don't Love Meは知られているだろう.Rooster BluesやBullseyeでCDを出し,allmusic.comを見ると,どこで流通しているか知らないが自身のWilcoレーベルでもCDを出しているようだ.アルバム以外に,1960年代から1980年代に掛けて,色々なレーベルでかなり多くのシングル盤も作っている.

ウィリー・コブスのシングル盤作品は,現在いくつかのCDでリイシューされているようだ.しかし,これらを世界で最初にまとめてリイシューしたのは日本盤のLP,Mr. C's Blues In The Groove!, Mina M-1005だったのではないか.もっとも,このLPの発売当時の印象は,「うーん,小粒な人みたいだな」というもので,その後は興味を失って,何枚か出たCDも実は聞いていない.今そのLPを改めて聞くと,捨て難いと思うけどね.

このSoul Beat盤の2曲,MinaレーベルのLPに同じタイトルの曲が入っている.だけどそのLPに入っているものとは違う.

Eating Dry Onionsはジミー・リード風の2ビートのブルースを硬化させたような感じ.歌の節回しがなんとなくYou Don't Love Meにところどころ似てしまうのがコブスらしい.コブスが強力なブルース歌手だとは思わないけど,タイトな伴奏にのって,本人比で力作だろう.LPに入っているバージョンはホーンが入っていたりして色々違っている.出来は微妙にこのSoul Beat盤が良いかな,いや,大差無いかな.

Worst Feelingは快調なリズムに乗ったインストゥルメンタルで,コブスのハーモニカをたっぷり聞ける.コブスのハーモニカは,例えばジェリー・マッケインあたりに比べると上手くないが,ひなびた味わいはある.ギター・ソロもよい感じ.LPに入っているものは,歌入りだ.伴奏トラックは同じかもしれない.歌詞とタイトルからすりゃ歌入りが本物だろうな.

The Blues DiscographyはWorst Feelingは1967年,Eating Dry Onionsは1970年の録音としているが,それが正しいのかどうか良く分からない.

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2009年9月13日 (日)

ギャンブラーのブルース

1970年代にアーカンソー州でレコードを出していたブルースマンとしては,カルビン・リーヴィは有名人の部類だろう.カルヴィン・リーヴィ,世間の評判はどうなんだろう.Cummins Prison Farmはヒットもしたし,良い作品ということで異義なし,なんだけど.純粋に音だけを聞く限り,Cummins Prisonを除けばローカルな,いささか地味めの中堅ソウル・ブルース・シンガーで,ギタリストとしても悪くはないけど,てなところだろうか.でも,実は,この人の個性は,すんごい辛口の歌詞を歌う人,という点にあるのではないか.そう思うのはP-VineのLPの一番最後に入っていた印象的なブルース曲のBorn Unluckyとか,曲調は明るいI've Got Troublesとか,ずいぶんキビシイ境遇のことを歌っているのがあるからだ.1973年に出た2パートに及ぶこの傑作も苦い内容のように聞こえる.

Calvin Leavy, Goin' To The Dogs Pt.1 b/w Goin' To The Dogs Pt.2, Soul Beat 111.

Soulbeat111 賭博絡みのブルースは昔からあった.戦前の,古い曲だったらGeorgia SkinとかCoon Canとかがときどき歌の文句に出てくる.ペグ・レッグ・ハウエルのSkin Game Bluesとかメンフィス・ミニーのGeorgia Skinとかに出てくるGeorgia Skinというのはトランプ博打のようだ.ピーティー・ウィートストローのCoon Can Shortyで歌われるCoon Canというのはサイコロ博打らしい.戦後録音でも無論いろいろあるだろうけど,サイコロ博打の歌ではビッグ・チーフ・エリスのDices, Dicesとか,トランプ博打だったらJ・T・ブラウンのBlack Jack Bluesとかはよく印象に残っている.競馬の歌もある.ジョン・リー・フッカーが「女が競馬狂いで困る」と唸るPlayin' The Racesとか,「馬に賭けるなんて割に合わない」なんて言われるチャールズ・ブラウンのRace Track Bluesなんかがそうだ.競馬がちらっと出てくる,という程度なら当ブログで取り上げた曲のなかにもある.そう言えば前回のMy Race Hossは競馬の歌とは言えないけれど,競争馬の比喩を使った歌だった.

米国のギャンブル・スポーツでは,競馬の他,ドッグレース,ハイアライが盛んだ,と昔何かで読んだことがある.米国人のドッグレースに対するイメージってどうなんだろう?ルーツが貴族のスポーツである競馬と,ドッグレースを比べりゃ,ドッグレースは競馬のマイナーな代替品みたいな,場末っぽい感じじゃないのか.間違ってるかもしれないけど.

競馬の歌はそこそこある一方で,ドッグレースをネタに選んだ曲って他にあるんだろうか.リーヴィがドッグレースに溺れる男の歌を発想した元は,彼自身の体験なのか,誰か知っている人のことなのか,分からない.検索してみると,アーカンソー州にもウェスト・メンフィスにSouthland Parkというドッグレース場があるそうだから,リーヴィがドッグレースに馴染があったとしても不思議なことはない.ドッグレースを題材に選んだことで,ただ珍しい,という以上にギャンブラーとしての玄人っぽさや,わびしさが感じられるような気がする.

曲は出走ファンファーレのメロディーをギターで弾くイントロから始まる.このイントロからしてもの悲しいものを感じてしまう.それで,ゆったりとしたビートの,メランコリックな伴奏にのってリーヴィは切々と歌っていく.歌の主人公の男はドッグレースで負けが込んで借金漬けになっていて,家もなにも差し押えられている.そんな家の居心地が良い筈は無い.それで,男は外に出掛けるが,その行く先はまたしても近所のドッグレース場になってしまい,そこで取ったり取られたり,取られたり取られたりして一日を過ごしてしまうのだ.

女のもらう生活保護をすっちまった
一日二重勝で勝負してたんだ
それで家に帰ったら案の定
とんでもない騒動になったのよ

歌の文句にあるdaily doubleというのは,特定2レースの1着を当てる馬券,いや,これは犬だからワン券で,日本語にすると一日二重勝となる.聞いていると,この男がドッグレースを本当に好きなのかどうか,分からなくなってくる.嫌いでもないだろうが,ギャンブルの興奮も陶酔も歌には全然出てこない.むしろ自分が狙った犬がいつも来ないのでうんざりしているようでもあるし,ギャンブル依存を後悔しているようでもある.それでも自分の家は借金と争い事だらけで,男は心休まる唯一の場所であるドッグレース場からどうにも離れられないのだ.

歌の世界がこれで伝わったのかどうか分からないが,素晴らしい作品だと思う.日本盤のLP/CDには入らなかったが,海外でCDリイシューされているようだ.

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2009年9月 6日 (日)

ウェスト・メンフィスの主(完)

サニー・ブレイクはCMCで3枚のシングル盤を出していて,これはその3枚目.

Sonny Blake with the Bo-Petes, My Race Hoss b/w So Much Trouble, CMC 1022/1023.

Cmc1022 My Race Hossはミディアム・テンポの心地よいブルースで,伴奏の方はハウリン・ウルフのI Walked From Dallasをゆる~くした感じ.歌の方は,ああ,この歌の文句に覚えがあるな.アーサー・クルーダップが1941年に録音したBlack Pony Bluesだ.渋い選曲じゃん.クルーダップの初期の曲は聴いてると結構癖になるのだけれど,ブレイク氏もクルーダップのレコード何度も聞いて覚えたのかな.ハーモニカもいい感じで,結論としてはナイス・サザン・ブルース.

My Race Hossに比べるとSo Much Troubleはいくぶんモダンなハチロクのミディアム~スローのブルース.何か元歌がありそうだが分からなかった.これも,特別にどこかが際だっているというわけではないけれど,良い出来だと思う.

このレコードのレーベルには1972年10月という年月が記されているのに気が付いた.前々回に1980年頃のレコードじゃねえか,みたいなことを書いてしまったが,全然違ってた.すんません.プロデューサー,アレンジャーの名前も記されていて(誰だか良く分からないけど),My Race HossSo Much Troubleでその名前が微妙に入れ替わっているので,録音セッションは裏と表で違うのかもしれない.

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